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辿り着いたドネア戦。西岡利晃ラストファイト

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今日、10月14日はあの日。
西岡利晃vsノニト・ドネアの日。

7年前の2012年10月14日。
米国カリフォルニアでの頂上決戦。

現地観戦を模索したが残念ながら叶わなかった。幹事として水道橋のスポーツバーでパブリック観戦を企画し30人のボクシングファンと一緒に西岡へ念を送った。声を枯らして西岡のラストファイトを見届けた日。

日本人ボクサー未踏の領域へ挑んだ、7年前のあの日の記憶。

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水道橋でパブリック観戦

現地に行きたくてしょうがなかったけど、残念ながらそれが叶わない事が分かった時、自分以外にもこの試合に注目するボクシングファンが沢山いる事を肌で感じていたので「力を終結させる」そう決めた。同じ想いを持つファンの方々と集まり、皆で西岡を応援したい。

水道橋のスポーツバーが、店内の巨大モニターで観戦させてくれるという情報を聞きつけ、SNSで希望者を募ったり誘ったりしているうちに約30人の参加者が決定。

試合1ヵ月前から、店のマスターと相談しながら1人あたりの料金と料理、飲み物の内容などを詰めていった。この頃何度かお店に足を運ぶ中でボクシング通のマスターの色々な話を聞かせて貰えたのだけど、その中で特に印象的なのはバレラとトリニダードの話。

店内にもバレラのグッズが沢山!

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バレラがキャリア途中で明確にファイトスタイルを変えた理由は~から始まり、トリニダードのルーシング戦の左フックの素晴らしさについて熱く語ってくれた。

ティトいえばボクシングファンの間では逆転KOのカンパス戦、バルガス戦が話題にあがりやすいけど、ケビン・ルーシング戦の話を出してくるなんて流石に目の付け所が違う。

時間と料金とコース内容が決まり参加メンバーも決定したので、全員に詳細を送って事前準備が完了。とてもありがたい事に、手間のかかる集金作業などを手伝うと言ってくれる親切な方が現れて、不安なく当日を迎えられた。巨大モニターはこんな感じ。

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現地に行けなくても、ここから念を送るよ。あとはスピキンのモンレフ炸裂を見守るだけ!

試合前の不利予想

海外ファンや専門誌の予想はドネア有利。西岡が勝つと断言している様なメディアはほぼ無かった。

でも僕は勝てると思ってた。
ドネアはスーパーバンタム級では言うほど怪物だと思えない。

バンタム級で猛威を振るった閃光も、スーパーバンタム級での実績はというとバスケスJrとマゼブラに勝ったものの、どちらもKOチャンスが訪れながらモノに出来ず判定。強いけどバンタムの時の様な怪物性は薄れてきてる。過大評価されてないか?

更に西岡の様な1発のあるサウスポーとの世界戦での対戦経験は少ないのと、加えてドネアはこれまでボディを打たれた事がほとんどない。階級を上げてから腹回りが少し柔らかい様にも見える。ムンロー戦で見せた様な西岡の多彩なボディショットが決まれば絶対に効かせられる。

それでも不利予想はしょうがない。今まで誰に勝ってきたかという観点で西岡はジョニゴン、マルケスというビックネームに勝っているがドネアはダルチニアン、モンティエル、ナルバエス…強豪中の強豪達を失神KOしたり時には12ラウンドの神経戦を戦ったり。キャリアの厚みは1枚上と見られているんだろう。

だから何だよ。だから何だってんだ。
今まで西岡みたいな選手とやってないだろう。

西岡は「勝利を確信してる」そう言った。いやコレ勝つでしょ!勝っちゃうでしょ。

4度の世界挑戦失敗とアキレス断裂という絶望の淵から、前人未踏の大舞台に辿り着いてみせた西岡利晃の物語はこの時点ではまだフェーズ3だから。ここから更にドネア撃破という日本ボクシング史上最高のフェーズ4が用意されているに違いない。

最強の応援グッズ「モンレフTシャツ」

当日、何を着て応援したかというとこちら。
一緒に観戦したボクシングファンの1人が、この日の為に作ってくれたモンレフTシャツ!

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ちなみにこの最終決定版が決まるまでにサンプルを沢山見せてくれていて、文字は「MONSTER LEFT」「SPEED KING」の2パターンと写真はジョニゴン戦とマルケス戦の2パターン用意してくれた。その中から選ばれたのがこの「MONSTER LEFT&ジョニゴン戦バージョン」

ジョニゴン戦の様な左ストレートをドネア戦でも決めてくれ!という熱い願いが込められたオリジナルTシャツ。デザインだけじゃなく生地も心地良い。

ちゃんと試合より前日に届けてくれました。
本当にありがとう。今でも宝物です。

セミのリオスvsアルバラードで店内沸騰

初対面の方もそれなりに多い中、大勢の前で乾杯の音頭を取るのは緊張するかなと思いきや、アドレナリンが出まくりで緊張のキの字もなかった。

「グラス持ってください。では…西岡勝ちます!乾杯!」

自分達の団体以外に一般のお客さんも入って来てるから、気付けば店内は超満員。ビールを片手に巨大モニターを見る観戦会が始まった。

メインの前のセミファイナル。ブランドン・リオスvsオスカー・アルバラード。

これがまたエグイ打ち合い…倒し倒されの逆転KO決着というトンデモ試合に。みんな適度にお酒も入り、遠方から集まってくれた方々もすっかり馴染んだタイミングでの逆転KO試合。店内は沸き上がり、次はメインの西岡登場というところで雰囲気は最高潮。

にっしおか!にっしおか!とコールが始まったところで、マスターが粋なコンテンツを挟んでくれる。

西岡vsドネアのポスターと、名勝負の代名詞デラホーヤvsクォーティーのポスターをジャンケンで買った人にあげますよ!って事で100%ガチで勝ちたいジャンケン大会が始まった。

ここで自分が勝ったのか負けたのか記憶がない。だけど帰宅したら西岡ドネアのポスターがあったので、勝ったのだろうか…

7年経った今も謎のまま。

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そうこうしてるうちに、両雄が入場してきた。マイケル・バッファーのスピキンコール。

きた!ついに始まる。

ラストファイト

試合開始~5ラウンド、ペースを掌握できない展開が続く。ポイントは取られているだろう。

それにしても…違い過ぎる。

これまでのドネアとあまりにも違い過ぎる。

こんなにジャブ出す選手だったっけ?雑で大振りが目立ったバスケスJr戦とは別人。

対西岡用に改良されてきたドネアが、試合を支配し続ける。西岡の左が当たる気配もなければ、力を込めて打てる気配もない。

6ラウンド。

ドネアの左アッパーで西岡ダウン。

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ダメージは?

これまでダウンを挽回した試合はいくつもあったけど、どれもフラッシュ気味な序盤でのダウンだった。中盤戦でしかもアッパーで倒されるのは初めての事。店内の女性ファンから悲鳴が上がる。

大丈夫か?立ち上がった西岡、打ち返す。

左ストレートを強打、ガードの上からドネアの上半身が揺れる。攻めてるから歓声があがってはいるのだけど…

なんだろう。何かイヤな予感がする。
ジャストミートする気配がない。

この後のラウンドも、西岡は懸命に状況打破を目指すが完全にドネアの流れ。やりたい事を先読みされてる感覚。このまま無残な判定を聞くのか‥頑張れ西岡。

にっしおか!にっしおか!
試合の流れが変わる時を待ち望む西岡コール。

迎えた9回、一段ずつ一段ずつ積み木を組み立てて来て、ついに西岡の左が当たりそうな瞬間がきた。狙い過ぎて読まれてる恐怖がハンパないが当てれば、当てさえすれば流れが変わるはず。

ロープ際で射程を定めて…
狙いを定めて…打てるか!

その瞬間。

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狙われてた。

ロープ際から脱出しなかったのも、先に当てる自信があったからあえて誘ったのかもしれない。

西岡は立ち上がったが、6回のダウンとはダメージが違う。ここでラッシュされたら、果たして対応できるだろうか。

悔しいけどもう、彼を救い出して欲しい。
「とめて!」そう叫んでた気がする。

レフェリーは一度試合を再開させた後、すぐ止めた。田中トレーナーがリングに駆け込んで西岡を抱えた。

試合終了。終わった…

まだこの次があるんだろうか。分からない。一つの区切りになる事は間違いない。

他の誰も真似出来ない、西岡利晃の物語。彼の偉大な挑戦が今、終わった。

シーンと水を打った様に静まり返る店内。

誰かが大声で言った。「西岡、お疲れ様!」「ありがとう西岡!」拍手が起きた。

悔しいけどTKO負けで試合は終わったんだ。その事実を意外な程すんなり受け止める自分がいた。おそらくこれはラストファイトになる。

騒めく空間の中で巨大モニターに映る西岡を見た時、なぜか脳裏に懐かしいあの試合が浮かんできた。

辰吉の前座で、渡辺純一を逆転KOした時の美しいカウンターの左ストレート。

初めて西岡を見た日。

あのフィニッシュシーンが鮮明にスロー再生された。

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玉砕と覚悟の違い

西岡の戦いぶりに対して、こんなコメントを聞いた。

「大一番で手数がなかった。持ってる力の半分も出せなかった」
「ここへ来て、ウィラポン戦の頃の臆病な西岡が戻った」

10人10通りの見方がある。

それはそれでいい。

僕はそうは感じなかった。

西岡は過去のどの試合よりも強い意志で勝とうとしていたと思う。ドネアの左フックを先に貰えば倒されてしまう。自分が打たれ強いタイプではないという自覚もあるだろう。

これまでは右ジャブでリズムを作って距離感を掴んでから、左強打を当てる流れで試合を組み立てて来た。この日は右腕をドネアの左から守る楯として使うシーンが多かった。そうなると右ジャブが出せない。左も打てない悪循環になる。でもそんな事は陣営の全員が試合前から想定していた事。

実際に相手がどう出て来るかと、自分がどう対応していくかは当日戦いながらアジャストさせていくしかない。対西岡用のドネアは直近2試合とはまるで別人の仕上がりで出て来た。勝つという覚悟の元、西岡は懸命に突破口を模索し続けた。

負けても面白い試合と言われる事が目的なら違う戦い方をしたかもしれないが、この試合の目的は勝利する事。究極の鬩ぎ合いの中、死力を尽くし敗れた西岡。

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初めて見せた悔し涙。

貴方は立派に戦った。

ここまで連れて来てくれてありがとう。それ以外に言葉がないよ。感謝しかない。

後日、この試合を現地観戦したファンの方と話す機会に恵まれた。現地の印象と映像の印象ではやはり、かなりの違いがあるらしい。彼はこう話してくれた。

玉砕と覚悟の違い。

「セミの試合が凄かったから、会場の雰囲気は異常なぐらいに盛り上がってて。入場してきた西岡を見た時に、この雰囲気に飲まれて序盤から打ち合ってしまうんじゃないか…そう心配してたんです。西岡の慎重な立ち上がりを見て、やはりこの人はハートが強い。そう思いました」

ドネアの「ベストバウトは西岡戦」は本音か

この試合の翌年、アナザースカイで西岡と再会したドネアは自身のベストバウトを西岡戦だと語っている。

出世試合のダルチニアン戦や、派手でウケの良いモンティエル戦ではなく西岡戦が自分のベストだと。

「自分が思い描く展開が出来た試合。あの日は全てパーフェクトだった。」

嬉しくなかった。

お世辞に聞こえたのが正直な感想。

日本が好きで、性格もグッドガイな彼だからきっとお世辞でそう言ってくれてるんだろうな。今までずっとそう思ってた。

ところが7年経った今、この2019年もドネアはどのメディアでもその質問に西岡戦だと答えている。

そこでドネアのこれまでの世界戦をハイライトでなく、全てフルラウンドで見直してみた。

ドネアという選手は、相手によって戦法を変えるものの基本は一発狙いのボクシング。序盤KOで強豪を倒した時のインパクトが強く度々その場面が取り上げられるが、序盤で当たらなければ後半戦は空振りでバランスを崩すシーンがとても多い。なのにこの西岡戦は後半に入ってもパンチの強弱、攻防一体の動き…他のどの試合より滑らかに見える。

あ、コレお世辞じゃないわ。本音だわ。

あの日、ドネアも西岡に勝つ為に過去にないコンディションを作り、勝利する為の最善のプランを遂行し続けた。

5階級制覇のレジェンド王者となった彼が40戦を超えるキャリアの中で、最も誇りたいのはこの試合なんだ。ファンでも専門家でもない、戦った本人が言ってるのだからその通りに受け止めれば良かった。

ごめんね、ドネア。

お世辞いいやがって。
ずっとそう思ってた^^

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終わらないドネアとの戦い

そして井上尚弥。

彼はこの西岡ドネア戦と同じ月、2012年10月に後楽園ホールでデビューした。

西岡から託される何かを受け取るかの様に、このラストファイトと同じ月にリングに現れ、今世界を席巻している。井上は西岡が開いた扉を超えてその続きを、次の景色を見せてくれようとしている。

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心のどこか「ドネアがレジェンドの面目を保つ負け方」を望む自分がいる。他の相手とは違うという見せ場を作ってから井上に敗れて欲しいと。

だけど現実はそうはならないと思う。無慈悲な程に、井上がドネアを圧倒するはず。

そしてこの何年先も、西岡が辿りついたドネア戦までの物語が色褪せる事はない。

あの日、2012年10月14日。

水道橋から声を枯らし勝利を願った日。

ラストファイトをずっと忘れない。

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